建設会社から受け取った事業計画書には、年ごとの収入と支出、借入金の返済、修繕積立金が並び、その下に「手元剰余金」という欄がありました。
文字だけを見ると、必要なお金を全部払ったあとに、自由に使えるお金がこれだけ残るようにも見えます。
ただ、ここで確かめたいことがあります。手元剰余金は、そのまま自由に使える金額とは限りません。
計画書の計算上「残るお金」と、家族が本当に自由に使えるお金は、同じなのだろうか。
今回は、実際に受け取った事業計画書をもとに、賃貸経営に入るお金の使い道を「返済・運営・修繕・税・生活・承継」の6つに分けて整理します。すでに差し引いた費用と、残額からさらに備えるお金を区別するための整理です。まだ建物は完成していないため、実際の賃貸経営でこれだけ残った、という記事ではありません。
私の計画書には「手元剰余金」という数字があった
私が受け取った事業計画書の収支表では、まず家賃などの収入があり、そこから固定資産税などの支出、借入金返済、修繕積立金を差し引き、その結果として手元剰余金が計算されていました。
計画書には、数字はその時点の設定条件によるシミュレーション・概算で、将来変動する場合があることも明記されています。
ここが大事でした。「手元剰余金」という欄があることと、その金額が将来そのまま残ることは別です。
家賃の前提が変われば収入は変わります。支出や修繕の時期が変われば、残る金額も変わります。また、その欄に何を差し引いているのかを確認しなければ、「残ったお金」の意味も分かりません。
まず、計画書で何を差し引いているかを見る
私の計画書では、支出の項目がいくつも分かれていました。固定資産税・都市計画税、管理に関する費用、維持費、光熱水道費、保守点検費、保険料などです。さらに、借入金返済と修繕積立金が別に置かれていました。
この資料を読むときは、「手元剰余金」という最後の数字だけでなく、何を差し引いた結果なのかを確認する必要があります。以下は受け取った資料の読み方の整理であり、担当者に質問して回答を得た記録ではありません。
逆に言えば、計画書の項目名だけでは、自分の生活に必要なお金や、将来家族へ引き継ぐために残したいお金まで考慮されているかは判断できません。そこは事業計画とは別に、自分たちで確認する必要があります。
「税務上の所得」と「手元のお金」も同じではない
もう一つ、分けて考えたいのが税務上の所得と現金の動きです。
国税庁によると、不動産所得は「総収入金額-必要経費」で計算します。必要経費の主なものには固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費などがあります。
国税庁「No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
一方、借入金の返済では、元本部分は現金が出ていきますが、必要経費にはなりません。国税庁は、業務のための借入金の利息は必要経費になる一方、借入金返済額のうち元本に相当する部分は必要経費にならないと案内しています。
国税庁 確定申告書等作成コーナー「借入金利子」
また、建物などの取得費は、取得した年に全額を必要経費にするのではなく、耐用年数にわたって減価償却費として配分します。つまり、税務上の費用の出方と、実際の現金支出の時期が一致しないことがあります。
国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」
「税務上の所得がある」「計画書上のお金が残っている」「自由に使える現金がある」は、それぞれ別の確認が必要です。
お金の使い道を6つに分け、差引済みかを確かめる
ここからは、今回の記事用に整理した読者向けの表です。私が当時この6分類で管理していたという意味ではありません。手元剰余金から6項目をもう一度すべて差し引く表でもありません。返済・運営・修繕の積立、固定資産税などは、私の計画書ではすでに差し引かれています。同じ費用を二重に計算せず、不足額や未計上の負担がないかを確かめます。
| 分ける資金 | 何のためのお金か | 私の計画書で確認できた例 | 別に確かめたいこと |
|---|---|---|---|
| ①返済資金 | 借入金の元本・利息を支払う | 借入金返済の欄がある | 実際の金利・返済開始・将来の条件変更 |
| ②運営資金 | 管理・保守・光熱水道・保険など日常運営 | 複数の経常支出が計上されている | 値上がり、契約変更、計上外の費用がないか |
| ③修繕資金 | 将来の修繕や設備更新に備える | 修繕積立金の欄がある | 対象部位、時期、積立額の根拠、大規模修繕 |
| ④税のための資金 | 税金を支払うために確保する | 固定資産税・都市計画税などの欄がある | 所得税・住民税など個人側の税負担は税理士へ確認 |
| ⑤生活資金 | 家計として必要な生活費を確保する | 計画書の手元剰余金だけでは必要額を判断できない | 賃貸収入から家計へ回す必要があるか、必要額はいくらか |
| ⑥承継のための資金 | 将来の相続・承継や家族間の調整に備える | 手元剰余金という名称だけでは必要額を判断できない | 誰が引き継ぐか、納税・分配等にどの程度の資金が必要か |
①から④は、事業計画書や税務の確認と深く関係します。⑤と⑥は、同じ賃貸事業でも家族によって必要額が変わります。
大切なのは、最後の一つの数字を「余ったお金」とまとめず、使い道ごとに分けておくことだと思います。
架空の数字で「残るお金」を分けるとどうなるか
考え方だけを分かりやすくするため、ここでは100という架空の年間収入を使います。私の物件の実額ではありません。
| 段階 | 架空の数字 | 考え方 |
|---|---|---|
| 年間の入金 | 100 | 家賃等が入ったと仮定 |
| 運営費 | ▲15 | 管理・保守・保険等の仮定 |
| 返済 | ▲45 | 元本・利息を合わせた現金支出の仮定 |
| 修繕用に留保 | ▲5 | 将来修繕に使うため残すと仮定 |
| ここまでの残り | 35 | この35を全部「自由なお金」とは決めない |
この架空例では、運営費15に税金を含めていないものとします。残り35から税の支払資金、必要な生活費、承継への備えを検討します。実際の計画書で固定資産税などが差引済みなら、同じ税金をもう一度引く必要はありません。また、修繕用に残す5は使途を決めた現金であり、この例では、まだ外部へ支払っていないお金です。
空室や急な設備故障に備える予備資金も、運営・修繕の区分で不足がないか確認します。年間でお金が残る見込みでも、税金や保険料の支払月に現金が足りるかは別です。年間の残額を単純に12で割って、毎月その額を使えるとは限りません。
「35残った」ではなく、「35のうち、まだ何のために残す必要があるか」と考える。この見方なら、計画書の数字と自分たちの生活・承継を一度に混ぜずに済みます。
計画書を確認するときに使える5つの質問例
次は、読者が自分の計画書を確かめるための質問例です。私が実際にこの5つを質問した記録ではありません。
① この「残るお金」は、何を差し引いた後の数字ですか。
② 修繕費は、どの部位をどの時期に直す前提ですか。
③ 家賃・稼働率・経費・金利のうち、将来変わる前提はどれですか。
④ 税務上の所得と、実際の現金残高はどう違いますか。
⑤ この事業以外に、生活・納税・承継のために残すべき資金はありますか。
①から③は建設会社・金融機関などへ、④や税の扱いは税理士へ確認します。⑤は家族の生活や承継方針も関係するので、一つの会社だけで答えを決めないようにします。
「いくら残るか」より、「何のために残すか」まで決める
事業計画書の手元剰余金は、計画を考えるための大切な数字です。どんな前提で計算され、何を差し引いた結果なのかを確かめることで、家計へ回せるお金や将来に備えるお金を考える出発点になります。
まずは6つの使い道を並べ、差引済みの項目に印を付ける。そのうえで、まだ計上されていない税金、必要な生活費、承継への備え、足りない予備資金を残額から確保できるかを確認する。この順番なら、同じ費用を二重に引かずに、長く持ち続けられる計画かを考えやすくなります。
融資条件そのものを確認したいときは、「固定金利で借りたい。でも、その金利はいつ決まる?」へ。工事中の入金と支払時期は、「借りる予定のお金、支払日に間に合う?つなぎ融資で確かめたいこと」で整理しています。建築費以外も含めた総額は、「建築費だけで足りる?土地活用で見落としたくない『総額』の話」をご覧ください。
この記事で紹介した事業計画書の内容は、私が実際に受け取った資料を匿名化して要約したものです。現在の実績収支ではありません。6つの資金区分と架空例は、今回読者が整理しやすいように作ったものです。個別の税額・必要経費・相続資金は、最新資料をそろえて税理士等の専門家へ確認してください。
税務情報の確認日:2026年9月16日。制度や取扱いは変わることがあるため、最新情報は国税庁・担当税理士へご確認ください。
