複数の建設会社から提案を受けるようになっても、私は、何を並べれば比較できるのかが分かりませんでした。金融機関の担当者に、各社の提案を一目で見比べられる一覧を作りたいと伝え、取り出す項目を相談したことがあります。
初期は共通条件を決めずに提案を受け取っていました。その後は対象範囲や希望条件を伝え、同条件での提案依頼を進めるためのやり取りもしました。ただし、それだけで各社の提案を完全に同じ条件で比較できたわけではありません。
今振り返ると、比べたい数字があっても、その前提を確かめなければ判断できなかったのだと思います。
この記事では、資料の版と対象、数字の意味、費用の範囲、未確定の条件、契約前の確認という順で整理します。当時の私がこの手順をすべて実行した記録ではなく、これまでの経験と資料の読み直しをもとに、今、確認するならどう進めるかをまとめたものです。
数字を並べる前に、比べる条件をそろえる
例えば、片方は建物本体だけの金額で、もう片方は解体や外構まで含む金額だったら。単純に安い順へ並べても、同じ内容の価格差は分かりません。これは比較するときの例で、私の各社提案をこの二つに分類したという話ではありません。
家賃や利回りも、何年目を見ているのか、どの収入や費用を使っているのかが違えば、その差には前提の違いが含まれます。
そこで私は、金額の大小を決める前に、「同じものを見ているか」を確かめたいと思っています。対象や計算の前提が対応している項目は比べる。違いが分かっている項目は、その違いを添えて読む。何が違うか分からない項目は、質問へ戻す。この三つに分けるところからです。
各社の提案を、何もかも同じにする必要はないと考えています。共通にしたい条件と、会社ごとの提案として残す条件を分ければ、違いそのものも検討材料になります。
まず、どの版の、どこまでの提案かを確かめる
数字を読む前に、手元の資料の作成日、修正日、有効期限を見ます。ここでいう「版」は、同じ提案書でも、いつの修正版かということです。
新しい資料を受け取ったら、金額だけでなく、何が変更されたのかも聞いておきたいところです。説明に使っている図面と、費用を計算した見積書は対応しているか。別の日に届いた資料を、自分の判断で一組にしていないかも確かめます。
私なら、まず担当者にこう聞きます。
「今回の比較に使う提案書・見積書・図面は、どの組合せですか。前の版から変わったところも教えてください」
次は、対象です。どの土地・建物を扱い、どこまでの工事を提案しているのか。部屋の広さや設備など、希望した条件と提案独自の条件はどこで分かるのか。対象が違うままなら、費用の比較に入る前に、その違いを整理します。
説明を受けたら、資料名とページ、回答を聞いた日を一緒に残します。口頭で確認できたことと、書面へ反映されたことも分けておけば、次の修正版で何を確かめるかが分かります。
次に、数字の意味と費用の範囲をつなげて読む
ここからは、記事を書くために読み直した、過去の一社・一つの版の計画書の例です。
その計画書の「表面」と「実質」という利回りは、計算に使う収入額が同じで、割る側の費用の範囲が違っていました。どちらの式にも収入から経費を引く記載はなく、一方で、別の収支欄では経費や借入金の返済などを差し引いていました。
この例から、私は収入の中身と、費用の中身を別々に聞くことを確認順に入れています。「実質」と書いてあるから手元に残るお金の割合だ、と名前だけで判断しないためです。式や個別の確認項目は、「土地活用の提案書、どう比べる?私が今確かめたい14項目」にまとめています。
費用の合計へ進んだら、次はその金額の中身と、どこまで決まっているかを見ます。同じ計画書にも、工事費に含むと記された項目、予算・概算とされた項目、金額が空欄の項目がありました。
ここでは二つの問いを分けます。「何が含まれるか」と「金額はどの段階か」です。対象に含まれると分かっていても、数量や価格はまだ決まっていないことがあります。予算は計画上見込んだ金額、概算はその時点の前提によるおおよその金額として、何が決まれば見直すのかを聞きます。
空欄も、それだけでは費用がかからないとは読めません。「含む」などの注記があるのか、扱い自体が未確認なのかを分けます。確認できていない費用を、比較のためにゼロへ置き換えることはしません。
解体などの費用でこの区分を詳しく確かめたい場合は、「解体・地中物の費用|予算に入れることと金額が確定することの違い」も参照できます。この段階では、対象範囲が不明なのか、金額が未確定なのかを分け、次の質問につなげます。
未確定の条件を、契約前の質問に変える
数字と費用の範囲が分かっても、提案の想定どおりに決まっているとは限りません。自己資金として自分で用意するお金と借入金、支払う日と融資の入金を予定する日も、ここで分けて見たいと思います。
建設会社には支払日と支払条件を、金融機関には融資の条件が決まる段階と入金時期を聞きます。もし支払日より入金が後なら、その間の資金をどう準備するかが残ります。資金の受取りと支払いの時期を照らし合わせるための質問です。
将来の収支についても、計算に使った条件と実績は別です。住宅金融支援機構の「長期安定経営のために知っておきたい4つのポイント」7ページでは、家賃・入居率、修繕費、返済額などの前提を確認する項目が示されています。2021年2月作成の資料から確認の観点を参照し、掲載された金利や費用の例を現在の条件には使っていません。
まだ決まらない項目があったら、「未定」の一言で終えず、何が分かれば決まるのか、いつ、誰が説明するのか、その間にどこまで話を進めるのかを聞きます。
例えば、工事範囲が未確認なら担当者に内訳を求める。融資の回答待ちなら支払予定との関係を確かめる。変更や中止に伴う負担の意味が分からなければ、契約案を持って法的な判断を弁護士へ相談する。分からない内容によって、戻る先を変えます。
契約前には、それまでの説明が、契約に用いるどの書類に反映されているかを確かめます。国土交通省の「民間建設工事標準請負契約約款(甲)」の契約書式も、契約書・約款・設計図書を組み合わせ、工期と支払方法を記す形です。約款は契約のルール、設計図書には図面や仕様書などが含まれます。標準書式が、そのまま個別の契約へ適用されるという意味ではありません。
私なら、見積もりに納得したかに加えて、「説明と契約書類は対応しているか」「未解決の点が残る状態で進めると、どんな影響があるか」を確認します。具体的な質問は、「見積に納得したら、契約して大丈夫?工事契約前に確かめたい4つのこと」で整理しています。
次の確認を選ぶための整理表
下の表は、ここまでの順序を手元の提案に当てはめるための記入用です。私の契約内容や実額を転記した表ではありません。提案ごとに、資料で読めたこと、担当者から聞いたこと、まだ分からないことを分けて書きます。
一度ですべて埋める必要はありません。途中で前提の違いが見つかったら、該当する行へ戻ります。特に、次の質問と確認先を一つ決めるために使う表として考えています。
| 確認する順序・項目 | そろえる前提・資料 | 分かったこと・根拠 | 未確認・保留事項 | 次に誰へ何を聞くか |
|---|---|---|---|---|
| 1.資料の版 | 提案書・見積書・図面の作成日、修正日、有効期限。 | 記入:比較に使う版と、確認した変更箇所。 | 記入:対応するか不明な資料、確認していない変更。 | 各提案の担当者へ、今回使う資料の組合せと旧版との差を聞く。 |
| 2.対象範囲 | 対象の土地・建物・工事、希望条件と提案独自の条件。 | 記入:共通の対象と、違いが分かった部分。図面等の該当箇所。 | 記入:範囲・仕様の違いと、対応が分からない部分。 | 建設会社・設計担当へ、どこまで同じ前提で比較できるか聞く。 |
| 3.収入・指標の定義 | 収入の内訳、式・注記、経費と返済の扱い、月額・年額・何年目か。 | 記入:何を合計し、何を引き、何で割る数字か。根拠の欄。 | 記入:式・期間・計画と実績の区分が不明なところ。 | 計画の作成担当へ、式と収支欄を分けて説明してもらう。 |
| 4.費用の包含・別途費用 | 見積内訳、税込・税別、含む・別途の注記、予算・概算の前提。 | 記入:含む範囲と、金額の確定段階。資料または回答の根拠。 | 記入:包含不明、未記入、金額未確定の項目。 | 見積担当へ、対象・確定する条件・別途手配の有無を聞く。 |
| 5.資金・支払時期 | 自己資金、借入条件、支払予定、融資の入金予定とその条件。 | 記入:支払う日と準備する資金。確認した回答の範囲。 | 記入:融資の回答待ち、入金日未確定、資金準備の不足する部分。 | 建設会社と金融機関へ、それぞれの期日・条件を聞き、照合する。 |
| 6.未確定条件 | 未定とされた事項、追加調査・変更の条件、質問と回答の記録。 | 記入:何が分かれば決まるか、回答者と回答日。 | 記入:担当・期限・費用や工程への影響が不明な点。 | 該当の担当者へ、いつ何を決め、それまでは何を保留するか聞く。 |
| 7.契約前の説明・書類 | 契約案、約款、添付する図面・仕様書、説明や変更の記録。 | 記入:説明が反映された書類・箇所と、確認済みの範囲。 | 記入:書面未反映、変更・中止等の条件、専門確認が必要な点。 | 契約担当へ説明との対応を確認。法的な判断が必要な点は弁護士へ相談する。 |
例えば「解体の予算額は読めたが、対象工事が分からない」なら、次は費用の行に戻って範囲を聞きます。「何を含むかは分かったが、契約案には反映されていない」なら、契約書類との対応を確認します。どちらも、まだ別の会社の提案を増やすことが先とは限りません。
条件が対応した項目は比較を進め、対応していない項目は差を残す。契約の負担に関わる不明点は、解消に必要な説明や専門確認へつなぐ。表が埋まったこと自体を、契約して安全という判断にはしません。
具体案が足りないときは、増やす前に不足を決める
今ある提案の説明が足りないのか、それとも、判断に必要な別の案がないのか。この二つも分けて考えたいところです。
説明が足りなければ、まず既存案の担当者へ追加質問をします。別の規模や条件の案が必要なら、何を共通にし、何を変えて検討したいかを伝えて追加の提案を依頼します。相談や作成に費用・条件があるかも、依頼前に確認したいと思います。
対象の土地や建物の資料自体が不足しているなら、今ある書類の保管者や、資料を持つ窓口を確認するところへ戻ります。相談先が決まらない場合も、建築の範囲は建設会社・設計担当、融資は金融機関というように、聞きたいことを分けます。税金の前提や計算なら税理士へ。国税庁も税理士の業務として税務相談などを案内しています。
資料や回答がそろわず、今は判断できないなら、追加確認まで見送ることも選択肢として残します。すでに申込みや契約をしている場合は、待つこと・やめることに伴う期限や負担を、その取り決めに戻って確認します。
私は、提案が集まったあとに、何を比べればよいかを相談するところから進んできました。今、次の打合せへ持っていくなら、結論を急ぐよりも、まずこう聞きたいと思います。
「この案を判断するために、まだ分かっていないことは何ですか。それは、誰に何を確かめれば分かりますか」
一つの回答で前提が変われば、先ほど比べた数字へ戻ることもあります。順番どおりに進むことより、今どこが分からず、次に何を確かめるかを見失わないこと。そのための整理として、私はこの表を使っていきたいと思っています。
